小学校低学年の「俳句」の作り方 ─指導案─

夏休みになると、俳句を作る宿題が出されることがあります。しかし、俳句に慣れ親しんでいない親御さんにとっては、どのように教えたらよいのか悩むことも多いでしょう。

この記事では、俳句初心者の親御さんが小学生低学年のお子さんに俳句を教える際に、どの点に注意して進めると良いかをわかりやすくまとめています。親子で一緒に俳句を楽しみながら、夏休みの宿題を乗り越えるお手伝いができればと思います。

俳句の基礎を簡単に

■ ルールは「五七五」の一つを伝えればいい

小学生低学年のお子さんが俳句を作る際には、まず「日々の出来事や自然の中で感動したことを五七五で表現してみよう」とシンプルに誘ってみましょう。季語のルールや助詞の使い方などの難しいことを教える必要はありません。

小学生は感性が豊かで、大人にはない面白い視点や感じたままの感動を持っています。そのため、見たまま感じたままに五七五で表現することで、素敵な俳句が生まれることが多いのです。

「五七五だけでいいの?」と思うかもしれませんが、それで大丈夫です。季語のことを詳しく説明しなくても、夏に外に出て俳句を作れば自然と夏の季語が入ります。例えば、「アイス」「プール」「蝉」「風鈴」「夏休み」など、すべて夏の季語です。季節の風物詩に触れながら作った俳句には、自然と季語が入っているものです。

頭から「季語とはこういうもので」「必ず季語を入れなければならない」と説明してしまうと、子供は堅苦しいルールにとらわれ、自由な発想で俳句を作ることができなくなってしまいます。

季語にこだわらない自由な俳句作り

「間違って夏に春の季語で俳句を作ったらどうするの?」と心配される親御さんもいるかもしれませんが、それは全く問題ありません。夏に春の季語を使っても、秋の季語を使っても構わないのです。外に出てその季節に見つけたものをそのまま俳句にすれば良いのです。

たとえ夏でも、春の花が残っていたり、秋の花が咲いていることはよくあります。俳句は、その時に見たものを素直に詠むものです。「夏だから夏の季語しか使ってはいけない」といったルールは存在しませんので、心配しないでください。

お子さんがせっかく感じた感動を表現しようとしているときに、「これは春の季語だからダメ」と否定してしまうと、その努力が台無しになってしまいます。子供が感じたままに自由に俳句を作ることを大切にし、「自然のことを自由に俳句にしてみよう」と優しく励ましてあげてください。

■ 五七五の数えかた

実際に「五七五」で俳句を作る際ですが、五七五の数え方は口に出して読んだときの音数を数えます。

例えば、有名な俳句「古池や蛙飛び込む水の音(ふるいけや かわずとびこむ みずのおと)」の場合、口に出して読んだときに音の数が「五七五」になっています。
このように、口に出して読んだときの音数が五七五になるようにすることが基本です。

古池や蛙飛び込む水の音
ふるいけや / かわずとびこむ / みずのおと (←こっちを数える)

細かく言うと、小さな「っ」や伸ばし棒「ー」も一音として数えますが、このようなルールは俳句を難しく感じさせるだけですので、ひとまず横に置いておきましょう。低学年のお子さんには、「口に出して読んだときに五七五になるようにしようね」と伝えるだけで十分です。


■ 五七五は、リズムに乗せると良い

俳句は、最終的に五七五にしなければならないのですが
そこに至るまでの過程では、次の手順を踏む必要があります

頭の中で詠みたいことを考える → 言葉に変える → 五七五の音数に合わせる

これらのことを頭の中で同時にやるのは、慣れた人でも難しいことです
ですので、まず五七五のリズムを体に染みつかせてから
その五七五のリズムに乗せて俳句を作った方が、作りやすいといえます

実際には

タタタタタ(五音)
タタタタタタタ(七音)
タタタタタ(五音)

このリズムを、声に出してもいいですし、手拍子を打ってもいいです
リズムを何度も何度も繰り返して、体の中に染みつかせます
リズムが体の中に染みついた状態で、歌を歌うようにリズムに合わせて俳句を作ります

すると、先ほどは

頭の中で詠みたいことを考える → 言葉に変える → 五七五の音数に合わせる

というように、3つあった手順が

頭の中で詠みたいことを考える → リズムに乗せながら言葉にする

このように、2つの手順ですむことになります
これだけでも、俳句はぐっと作りやすくなります

リズムで作る理由はもう一つあります
小学生低学年は、聴覚が急速に発達し、リズムやメロディーに敏感になる時期です
それと同時に、リズムやメロディーに楽しさを覚えるようにもなります
ですから、五七五のリズムにのせて俳句を作らせてあげることは、子供自身も楽しみながら俳句を作ることにつながるのです

まずは俳句に親しめるように、五七五の厳密なルールを教えるのではなく
五七五のリズムに載せて、俳句を作るのが良いでしょう

俳句つくりの視点

■ 「例え」を利用した俳句を作る

小学生低学年に有効な作り方として
ものを例えて俳句を作らせる方法があります

○○のようだ
○○みたいだ

というように、あるものを別の物に例えて俳句を作ります

夏雲は綿飴のよう
夕立は天使のおしっこ

というものがそうですね

小学生の低学年では、物事を考えたり説明するときに、別の物に例える特徴があります

この特徴は、子供の頃にとても強く、大人になるにつれて少なくなっていきます
子供の特徴を生かした俳句を作らせることで、大人も驚くような、「例え俳句」を作ることができるでしょう

具体的に、「例え俳句」はどのように作ればよいのか、ですが
次のような質問を、子供に投げかけてみるのも有効な手段です

「あの雲は何に見える?」
「この風は、何をしていると思う?」

子供が

「雲は綿飴に見える」
「風は、葉っぱの掃除屋さん」

というような答えを出したら、その例えを生かします

「雲は綿飴」
「風は、葉っぱの掃除屋さん」
という例えを、五七五のリズムに乗せていきます

タタタタタ(五音)
タタタタタタタ(七音)
タタタタタ(五音)

この五七五の短い音楽に、ぴったりの歌詞を作るような感覚で、俳句を作ります

「夏雲は 綿飴みたい 甘そうだ」
「夏の風 葉っぱをお掃除 しているよ」

このように作れるかもしれません

■ 「視覚」を利用した俳句を作る

低学年では、視覚も急速に発達することが知られていて、成人よりも鋭く色彩を感じることがあります
遠いところの景色が良く見えるだけでなく、多少暗い場所でも物をはっきりと見ることができます
明暗の感度は年齢とともに衰え、高齢者になると、周囲に3倍近い照度がなければ同じようには見ることができなくなります

わたしは、小学生の時に見た星の美しさが、いまでも脳裏から離れません
あれほど鮮明に見えていた星が、今は、当時と同じ視力に調整した眼鏡をかけても、同じ輝きとして見ることはできません
大人では見ることのできない薄暗い星までも、当時は鮮明に見えていたのだと思います

細かいものも、やはり小学生の頃の方が感度が良く見ることができます
虫の細かな構造、花の細かな色彩の構造に、子供たちは目を輝かせます

子供の時にしか見ることのできない景色はあります
それはそのまま「子供に時にしか作ることのできない俳句」につながります

遠くにある雲、星、山、月などがどう見えるか
暗闇にいるコウモリやホタルがどう見えるか
目を近づけて見た花や昆虫がどう見えるか
などを聞いて、それを俳句にすると、その年齢でしか感じられない大きな感動を、俳句で詠めるはずです

■ 「聴覚」を利用した俳句を作る

この時期の子供は、聴覚も急速に発達していきます
音の複雑なハーモニーに対する感覚は低いのですが、メロディーやリズム(特にリズム感覚)は敏感になります

音楽が流れるとリズムを取り始めたりしますよね

この聴覚を生かして
「雨の音、風鈴、祭りの太鼓、キツツキ、蛙の鳴き声」がどう聞こえるか
とたずねて、俳句にしてもよいでしょう

伸び盛りの聴覚で音を聞き取り、そして作った俳句は
この時にしか作れない俳句になるでしょう

■ 「子供の興味」を利用して俳句を作る

この時期の子供は、物事に対する注意力と集中力が著しく高まります
興味のあることに対しては、異常な熱中を示します
自然等への関心が増える時期でもあります

興味を示す対象が、虹、星、カブトムシ、蛍など自然や動物に向けられているのでしたら
それを、俳句で詠ませてみましょう

自分が興味のあることですから、他の人には感じられない視点や、考え方を持った、その子らしい新鮮な俳句を作るかもしれません

■ 「子供の感覚(共感覚)」を利用する

子供のころは「共感覚」が強いことが知られています
共感覚とは文字や数字に色を感じたり、音に色や形を感じたり、味や匂いに、色や形を感じたりすることです
芸術家などではこの感覚を持つ方が多いようですが、幼児から子供のころは、皆がこの共感覚を持っていると言われています

共感覚は「ひとつの感覚の刺激によって、別の知覚が無意識に動く現象」とも言えます
見ているのに聞こえる。聞いているのに見える。という感じですね

子供が、星を見て「星がリンリンと鳴っている」と言ったとします
それを俳句にしたとします
「お星さま リンリンリンと 鳴っている」
大人の感覚では「星が鳴るわけがないでしょ」と思ってしまうかもしれませんが
大人には聞こえていなくても、子供には聞こえているものがあるのです

共感覚は子供のころにしか感じられない貴重なものですから
積極的に、この感覚を取り入れた俳句を作らせてあげるのも良いと思います

人間には5つ「見る、聞く、嗅ぐ、味、触る」の感覚があります
普通は、星は「見る」ことしかできませんね
ただ、「見る」という刺激によって、他の「聞く、嗅ぐ、味、触る」という知覚が働くとすれば
「あのお星さまから、なにか聞こえる?」
「あのお星さま、匂いする?」
「あのお星さま、味がする?」
「あのお星さま、触ったらどんな感じかな?」
などの質問に、答えるかもしれません
その答えをもとに俳句を作らせてあげると、大人には作ることのできない面白い俳句ができるかもしれません

■ 「なぜなぜ?」の質問を利用して俳句を作る

この時期の子供は「なぜなぜ?」と、親や教師に質問攻めをするのも、特徴の一つです

この「なぜなぜ?」という質問に対して
「なぜだと思う?」というように、子供の考えを聞き出してみるのも良いでしょう
すると、子供特有の面白い見方を、突然につぶやくかもしれません

例えば子供が
「雲はなぜ浮いているの?」
と聞いてきた場合、子供自身はどう思っているのかを聞いてみるのです

「羽根が付いているからかなぁ」
といった答えがでるかもしれません
そのときに、「そんなわけないでしょ」と間違いを指摘するのではなく
「そうかもしれないね」
「それを俳句にしてみようか」
と誘ってみるのです

「夏の雲大きな羽根で飛んで行く」

といった句を作るかもしれませんね

「なぜなぜ?」といった好奇心や興味は、大人になるほど薄れていくものです
人生の中で、最も強く好奇心を抱くこの時期に、「なぜなぜ?」の質問に付き添ってあげることで、子供の好奇心の発展にもつながるでしょう

■ 「物や動物の視点」で俳句を作る

この時期の子供は、空想をしやすい特徴があります
自分が草や花になったり、虫になったりして、自然界のそれぞれのものに固有の霊が宿るという「アニミズム」のような感覚を持ちます
それは同時に、自然や環境が生きていて自分と話すことができると感じていることであり、大人には持つことのできない感覚です

ゆえに、自然界の様々な物になりきったり、自然の物と会話するような俳句を作ると、とても面白い俳句が作れるでしょう

自然界の物になり切るような質問として

「カブトムシはどう思っているのかな?」
「夏雲になったとしたらどんな気持ちかな?」
「朝顔とお話ができたら、どんなことを話す?」

というように聞いてみましょう
子供の出した面白い答えから、五七五の俳句にまとめてみましょう

最後に

■ 「話し言葉」で俳句を作るのは当たり前

子供が「話し言葉」で俳句を作ったら、それをそのまま作品にしましょう

有名な俳句作品をみてみると、ほとんどが”文語”で(文章を書く様に)表記されているのに気が付きます
このような作品群を見ていると、文語で俳句を作らなければいけないのだろうな、と思ってしまいますが、そんなことはありません

話し言葉でも、素晴らしい作品は沢山あります
もし子供が「話し言葉」で作品を作った場合は、それをそのまま作品にして、褒めてあげることが大切でしょう

自然の中で美しい景色を見たとき、低学年では感動場面を話し言葉で物語ることが多いものです
子供はそれらの場面を文章で再現するというより、豊かな想像力によって造形していきます
子供はその時々の自分のイメージを自由に表現していくのです
ですから低学年の子供の、話し言葉で作られた俳句というのは
その時期特有の、子供らしい、生き生きとした作品であることが多いものです

間違っても、大人の勝手な解釈を入れて、文章らしく手直しをするのは、控えたいものです

■ 子供の俳句は、褒めてあげましょう

子供が頑張って俳句を作ったら、それが、どんな句であっても、褒めてあげたいものです
それはその子にしか見ることのできない視点です
その子が、その時期にしか感じられなかった感動です

大人の狭い視野、凝り固まった常識で批判をするのではなく、「良い視点だね」「よい句だね」と一言、褒めてあげましょう
褒められた体験は、それが例え小さなものでも子供の自信になるはずですし、一度褒められると、子供はもっと褒められたくて、自ら積極的に、色々なことに挑戦するようになるでしょう

■ 最後に「小学生低学年の俳句に細かはルールはいらない!」

小学生低学年というのは、伸び伸びとした幼稚園・保育園から、決まり事の多い小学校へと、学習環境が急激に変化するため、子ども自身も戸惑ってしまう時期です
その上にさらに、俳句のよくわからない決まり事を、押し付けてしまっては、それだけで子供のストレスとなってしまうことでしょう

細かなルールは、横に置いて
「日々の出来事や、自然の中で感動したことを”五七五”で言ってみようか」
と誘ってあげてください

そして、小学生低学年の時期に特に発達する能力を生かすように誘導してあげれば、まさに、その時にしか作ることのできない、宝石のようにきらきらした俳句が作れるはずです

俳句は”自然を詠む詩”です
この時期の子供は、特に自然に関心を持ちやすいものです
自然の美しさや、自然の奥深さに感動したことを、俳句を使って自分の言葉で表現させてあげましょう
幼児期から少年期に獲得した考え方や感じ方はその人の心の基盤となり、人格を形成する大切なものになるはずです

子供たちが楽しみながら俳句を作れるように
俳句が情操教育の一環となるように
わたしたち大人が誘導してあげられれば、素晴らしいと思います


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