小学校高学年の「夏の俳句」の作り方 ─指導案─

■見たままをそのまま俳句にしましょう
低学年では、俳句を詠む対象(風鈴、蜻蛉、蛙、祭太鼓、団扇、かき氷など)を見たままではなく
自分のイメージで造形して見るという特徴があります
しかし高学年になると、対象の見え方に基づいて忠実に物事を見ることができるようになります
見たものを見たままに詠む俳句を「客観写生俳句」と呼びます
小学生高学年からは、この「客観写生俳句」を勧めてもよいでしょう
「見たままを見たままに、絵を描くように俳句にしてみましょう」
と言ってあげましょう
客観写生の句を一例あげます
甘草の芽の飛び飛びの一並び
(かんぞうのめのとびとびのひとならび)
この俳句は、見たものを見たままに詠んでいますよね
人によっては、つまらない俳句だ、と言ったり
これが俳句なの?と思う人もいるかもしれません
ただ、人間の余計な考えや知識の入っていない
シンプルで綺麗な俳句だとも言えます
一つの作り方として、小学年高学年から教えることのできる方法ではないでしょうか
■詠む対象を様々な角度から見て作る
低学年では、対象の見え方に関わらず、一方向の姿からしか表現することができません
子供の描く「親」や「猫」などの絵が、一方向(だいたい正面向き)であるのが、よい例です
しかし高学年になると、この特徴は消え、多方向からの姿も表現できるようになります
状況に応じていろいろな見方ができるようになるのを、表現することができます
ですから、高学年では、俳句を詠む対象(例えばクワガタでしたら、クワガタ)を
いろいろな角度から見て、いろいろな視点で俳句を作るように指導してもよいでしょう
ただ、子供によって成長の遅速がありますので
できない子供に無理にやらせることはないでしょう
■季語の教え方について
高学年では、季語の概念を教えても理解ができるようになっているはずです
ただ、季語の概念が分かるからと言って、莫大な数の季語を教えて
季語の細かな使い方を教える、という詰め込み型の教育はやめた方が良いでしょう
そのような知識の暗記を強要したところで、子供の理解力をはるかに超えてしまい
誰もついてくることはできないでしょう
それよりも、まずは季語というものに意図的に注意を働かせるようにした方がよいでしょう
具体的には
「夏の季語というのは、夏によく見られる事物のことです」という説明だけをしたうえで
子供にいくつかの俳句を鑑賞させます
その時に、夏の季語がどこにあるか、点検する課題を与えてみるのです
それだけでも子供たちは、季語に注意が向くようになるはずです
さらに、自分の作った俳句の中に、夏の季語は入っているかを点検させると、より季語に対して注意が向くようになるでしょう
子供は、いま自分のおこなっている行動の課題(ここでは季語を探す)を理解しているほど
課題に対して、強い注意力が働くものです(つまり、季語に注意が向くようになります)
季語や季語の使い方といったルールを丸暗記することは、大人だってやりたく無いはずです
そのようなことをさせるのではなく、季語というものに注意を向かせることで、自然に子供が季語に慣れ親しむように手助けをした方が良いでしょう
俳句を鑑賞する中で、季語に注意が向くようになると
俳句の中での季語の使われ方
季語の目的
季語が使われる動機
季語を使う際の手段など
俳句と季語との関係が、次第に子供の中に認識されるようになるはずです
季語を覚えさせるより、季語に注意を向かせる
高学年ではまず、そのように指導していった方がよいと思います
■物事のつながりを俳句にする
高学年は、記憶力がもっとも発達する時期でもあります
記憶力が高まると、物事のつながりが理解できるようになります
風鈴がただ鳴るのではなく
風が吹くことで鳴るという、風鈴と風のつながりが分かるようになります
低学年の時は対象そのものしか詠めなかったものが
高学年では、対象と別の物とのつながりまでも詠むことができるようになります
このことは、表現力の広がりにもつながる大きな成長です
風鈴そのものを詠んだだけでは、鑑賞者には風鈴だけしか思い浮かべることができませんが
風鈴と風を詠めば、風鈴だけでなく風鈴の時期(夏)の熱い風をも、鑑賞者は思い浮かべることができます
風鈴と風鈴の素材を詠めば、風鈴の音の違いも、鑑賞者は思い浮かべることができます
高学年になってからは、対象をそのまま詠む他に
対象と別の物とのつながりを詠ませても良いでしょう
■過去の記憶や思い出から俳句を作る
高学年は、記憶力がもっとも発達する時期になる、ということは先ほど説明しましたが
様々なことを記憶できるようになると、詠もうとしている対象(例えば風鈴)の思い出など
過去の記憶と関連付けた俳句が作れるようにもなります
「風鈴を見たとき、どのような記憶がよみがえる?」
「風鈴の音に、どのような思い出がある?」
と尋ねて、子供の出した答えで俳句を作ることも可能になります
ある子供は、楽しい思い出があるかもしれません
ある子供は、さみしい思い出があるかもしれません
それぞれの子供に、それぞれの記憶がありますので、それを関連付けた俳句を作らせてみましょう
この時に注意したいことは
過去のことであっても、今まさに風鈴を聞いているように詠んだ方がよいでしょう
過去を振り返ったように詠んでしまうと、その人の報告となってしまうからです
× 「風鈴をいつも一人で聞いていた」
〇 「ただ一人風鈴の音だけが鳴る」
上の句は、過去にあったことを振り返りながら詠んでいるため
俳句というよりも、単なる過去の報告となってしまっています
下の句は、(過去の出来事なのですが)今まさに風鈴が鳴っているように詠んでいるため
鑑賞者に、寂しい感じも伝えることができます
■なぜ?から俳句を作る
高学年では、仮説的な思考ができるようになってきます
例えば、なぜ夕日が赤いのか?という疑問が生じたときに
様々な経験や記憶を総動員して、仮説を立てる事ができます
低学年の場合、そのような疑問に対して
直感的なイメージでしか理由を考えられないのとは大きな違いといえます
子供が
「なぜだろう?」
と言った時に
「なぜだと思う?」
と、子供の仮説を聞いてあげましょう
高学年になると、具体的なイメージをもって自分の考えを述べるはずですから
それを、そのまま俳句にするとよいでしょう
ただこの時の子供の仮説が、科学的に正しい理由を言ってしまった場合は
残念ながら俳句にはなりません
「夕日が赤いのはなぜだと思う?」
という質問に対して
「赤色の光だけが空に残るから」
と、正しい答えを言ってしまった場合
それを、そのまま五七五にしてみても、それは「詩」ではなく、夕日が赤い理由を述べた「解説」になってしまうからです
それは科学の本を見れば詳細に分かることで、俳句で解説することではありません
■社会生活をテーマにした俳句を作る
高学年になると、同年齢の仲間同士で緊密な交流をするようになります
すると、仲間集団の中で、指導し、指導されることを学び、社会性の感覚を急速に発達させていきます
このような特徴から、高学年からは「社会生活」をテーマにした俳句を作らせるのも良いことでしょう
「社会生活」をテーマにした俳句というのは、どういうことかというと
俳句の季語は、大きく分けると
「時候」「天文」「地理」「暮らし」「行事」「植物」「動物」の大分類に分けられます
この中で「時候」「天文」「地理」「植物」「動物」は、自然を対象にした季語ですが
「暮らし」「行事」は社会生活を対象にした季語です
社会性に敏感になり始めた高学年から、この「暮らし」「行事」に関する俳句を作らせてあげれば
まさに、いま社会性を獲得していこうとしている子供の、みずみずしい感覚の俳句ができるのではないでしょうか
夏の「暮らし」「行事」の季語で、高学年に関係のありそうなものをあげてみます
アイスクリーム / 夏休み / 帰省 / 夏期講座 / 林間学校 / 浴衣 / サイダー / 風鈴 / キャンプ / 登山 / 海水浴 / 金魚売 / こどもの日 / 祭 / 金魚売 / 白玉 /
 / シャワー / 母の日
ほんの一部ですが
このような季語をもとに俳句を作らせてみてはどうでしょうか
■自然をテーマにした俳句を作る
先ほど、高学年では社会性の感覚が発達するため、社会生活を対象にした季語で俳句を作った方が良いと言いましたが
昨今の高学年の環境を鑑みると、自然を対象にした俳句にも沢山関わらせてあげた方が良いと感じます
と言うのは、高学年になると塾やけいこごと、インターネット等を通じた擬似的・間接的な体験が増加し
少年らしい、自然に触れる遊びから離れていくようになるからです
自然との接点は、子供の将来の人格形成にも大きな役割を持っていて、情操教育の一環としても重要な位置を占めています
自然との触れ合いの少なくなっている現在、俳句を通じて、自然と触れ合わせることが、とりわけ大切になってきているのではないでしょうか
一部ではありますが、夏の自然に関わる季語をあげてみます
これらの季語で俳句を作らせてあげると良いでしょう
「時候」
暑き日 / 入梅 / 熱帯夜 / 梅雨明
「天文」
夏の雲 / 夏の空 / 夕立 / 夕焼け
「地理」
夏の山 / 夏の海 / 滝/ お花畠
「植物」
雨蛙 / 蝙蝠(こうもり) / 守宮(やもり) / 蜥蜴(とかげ) / 燕の子(つばめのこ) / 金魚(きんぎょ) / 目高(めだか)
「動物」
薔薇(ばら) / 紫陽花(あじさい) / 青林檎(あおりんご) / 向日葵(ひまわり)
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