旧暦5月を指す言葉に「月不見月(つきみずつき)」という季語がありますが、この「不見(みず)」とは何なのでしょうか
各書籍では、「月不見月」と書くのは「五月雨のため、月が雲に隠れてめったに見えないところから」と説明があります 1.2.3)
そうなると「月不見月」の「不見(みず)」は、「見えない」という意味になるはずですが
「不見(みず)」は「見えない」という意味なのでしょうか
隠語大辞典では不見(みず)の意味を「手の札をみない事、それにより色々の規約をつける。」と書いています 4)
精選版 日本国語大辞典では、不見(みず)は不見転の略で「見通しもないのに行動すること。」と書いています 1)
「見えない」という意味ではありません
不見(みず)ではなく、不見(ふけん)と読んだ場合、「見ないこと。見ていないこと。」という意味になるのですが 1)
こちらも「見えない」という意味ではなくて、「見ない」という意味です
「月が見えない」のと、自分の意志で「月を見ない」のとでは、全然意味が違います
「月不見月」を角川俳句大歳時記は「月見ず月」と表記しています 5)
この「見ず」は、「見る(上一)」の未然形に打消しの「ず」を付けたものだと思います
そうなると、こちらも「月が見えない月」ではなく「月を見ない月」という意味になります
「月が見えない月」であれば、「見ゆ(ヤ下二)」の未然形に、打消しの「ず」の連体形の「ぬ」を付けた
「月見えぬ月」と書くのではないでしょうか
一方で、「和漢雅俗いろは辞典」では、「月不見月(つきみずつき)」を「月不見月(つきみぬつき)」と読んで紹介しています 6)
このように、表記も読み方もばらばらであるのは、この「不見」という言葉自体に、何らかの問題があるから
読み方も表記も定まらないのでは?と感じてしまいます
ちなみに「不見」という表記は七十二候の中にも見られます
虹蔵不見(にじかくれてみえず)
ここでの「不見」は「見えず」という振り仮名が付けられています
「虹が隠れて見えなくなる頃」という意味です
同じように使えば「月不見(みえぬ)月」になります
「月見えぬ月」とも表記できます
「月不見月(つきみずつき)」や「月見ず月」という季語を使うときは
ご自身でも確認をしてから使うようにした方が良いと思います
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1)小学館.(2006).精選版
日本国語大辞典.小学館.
2)松村明.デジタル大辞泉.小学館
3)古今要覧稿 第1巻.屋代弘賢
著.国書刊行会.明38-40.p.575
4)皓星社.(2017).隠語大辞典.皓星社.
5)角川学芸出版.(2006).角川俳句大歳時記.角川書店.
6)高橋五郎.和漢雅俗いろは辞典.(明26).いろは辞典発行部.