「雁の涙(かりのなみだ)」という秋の季語があります
日外アソシエーツ「俳句季語よみかた辞典」で紹介されています 1)
意味は、露を雁の涙に例えたもの
このような比喩は昔から使われていて、『万葉集』でも見ることができます
鳴きわたる雁の涙や落ちつらむもの思ふやどの萩の上の露
(物思いにふける人の家の萩の上の露は、空を鳴いて渡ってゆく雁の涙が落ちたのだろうか)
昔から使われている比喩表現を季語にしたのですが
このような季語はたいてい、単独では意味は分かりません
単独で「雁の涙」と言われても分かりませんよね
先ほどの和歌は
「萩の上の露は、雁の涙が落ちたのだろうか」と詠んでいるから
歳時記に「雁の涙」が載っていて、「露を雁の涙に例えたもの」と意味が書かれているからと言って、「雁の涙=露」で俳句を作っても、読者に意味は通じません
また、このような比喩表現は歌の肝になっている部分でもあるので
それを使えば、類想になる可能性が高まります
通常、私たちが行わなければいけないのは
「露」という季語に対して様々な表現はできないか、頭を悩ませて「露を○○に例えてみよう」という発見をしなければいけません
他人の発見した「雁の涙」と言う表現を使っても、意味はありません
「雁の涙」を俳句で使う場合は、そのようなことを考えて、使うか使わないかを判断をしたほうが良さそうです
それを知らずに使っても類想、盗作になりかねません
「四季を語る季語」は、そのような問題のある季語が掲載されていません
歳時記を探している人にはお勧めします
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.