俳句の世界では、良い俳句は韻律が良いと言われます
しかし、具体的に韻律が何なのかを説明しているのは、聞いたことはありません
ここでは、韻律とは何なのか
どのようにすれば、良い韻律の句が作れるのかを、具体的に説明します
どのようにすれば、良い韻律の句が作れるのかを、具体的に説明します
「韻律」とは、音声の高さ・強さ・長さによって作り出される言葉のリズムのことです
ですから、音声の高さ・強さ・長さなどが整っていると、韻律の良い俳句と言うことになります
ここでは、音声の高さ・強さ・長さのうちの「音声の長さ」に絞って話を進めます
「音声の長さ」は音楽で言う所のリズムに相当すると考えてください
4拍子や8拍子もリズムの一つで、人間は繰り返しのリズムに心地よさを感じます
俳句もそのリズムを用いられている訳です
音声の長さ(音楽で言う所のリズム)
次の俳句を読んでみてください
4拍子で表記してみます
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ゆくはるを・・・ おうみのひとと・ をしみける・・・
行春を 近江の人と をしみける
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韻律の良い句は、一小節ごとに上五、中七、下五のそれぞれが収まっていることが多く、四拍子のリズムにも上手く乗っています
一定の音の長さ、一定の音のリズムに収まることで、読む人に心地よさを与えるのです
正調の句はこのように、長さ、リズムともに綺麗におさまっているのですが、破調の句では、うまく収まらないことが多い傾向にあります
正調の句と、破調の句を見比べてみましょう
正調の句
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いくたびも・・・ ・ゆきのふかさを たずねけり・・・
幾たびも 雪の深さを 尋ねけり
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とどまれば・・・ あたりにふゆる・ とんぼかな・・・
とどまれば あたりにふゆる 蜻蛉かな
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どちらも、一小節の長さ、リズムに俳句が収まっていますね
破調の句
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あけぼのや・・・ しらうおしろきこ といっすん・・・
明ぼのや しら魚 しろきこ と一寸
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上記の句では「しろきこと」という単語が小節をまたいでいて、リズムが悪くなっています
では「しろきこと」を「しろき」「こと」にすればよいのでしょうか?
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あけぼのや・・・ しらうおしろき・ こといっすん・・
明ぼのや しら魚 しろき こと一寸
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こうなると、少しは良くなりましたが、リズム的には下五がだらだらした感じを受けます
また、「こと一寸」が、一つの単語のような違和感を与えます
もしかすると作者は、「しらうおしろきこと」までを中七のリズムで詠んだのかもしれません
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あけぼのや・・・ しらうおしろきこと いっすん・・
明ぼのや しら魚 しろきこと 一寸
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このように読むと、中七で一気にスピードが増して、緩急が生まれます
最後の「一寸」が四文字の短いフレーズになってしまいますが、その短さが「一寸」にかかっているようにも思えます
芭蕉に答えを聞くことはできないので、正解は分かりません
ただ、今見たように「破調の句はどこまでが一区切りなのか」読み手を迷わせてしまうことは確かです
こうなると、「韻律が良い句だな」と読者が思うことは難しいのではないでしょうか
では、破調の句は作ってはいけないのか?と思ってしまいますが
そんなことはありません
俳句のリズムを意識できれば、破調でも、字余り・字足らずの句でも作れるようになります
また、先輩方が言う「この句のような字余りなら大丈夫」という意味も分かるようになります
次の句は、五・五・七の破調句です
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うみくれて・・・ かものこえ・・・ ほのかにしろし・
海暮れて 鴨の声 ほのかに白し
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普通に読むと、だらだらと流れる感じを受けます
ただこの句を作った作者は、次のリズムで詠んだはずです
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うみくれて・・・ ・かものこえほの かにしろし・・・
海暮れて 鴨の声ほの かに白し
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最後の「五・七」が流れるような言葉となり、リズム感が増しました
芭蕉の字余りの句です。六・七・五
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たびにやんで・・ ゆめはかれのを・ かけめぐる・・・
旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる
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この句も、普通に読むと流れが悪いのですが、作者は次のリズムで詠んだはずです
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・たびにやんで・ ・ゆめはかれのを かけめぐる・・・
旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる
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どうでしょうか、リズムが出て、まるで句そのものが野を駆けているように感じます
上六の字余りの違和感もなくなったのでは無いでしょうか
ここで言いたいのは、リズムを意識して詠めば、破調でも、字余り・字足らずの句でも、韻律の良い句は作れると言うことです
逆に、このリズムを理解していなければ、韻律の良い破調句は作れませんし、先輩の句を鑑賞しても、どれが良い破調句で、どれが悪い破調句なのかを見分けることもできないでしょう
鑑賞するときに毎回、音符を思い浮かべる人はいませんが、無意識の中では、多くの人が上記のようなリズムを刻んで読んでいるのです
リズムの良い句は読者に、韻律の良い、心地よい句だと感じさせることができます
リズムを効果的に使えるようになると、芭蕉のように、字余りを利用してリズム感を高める、ということもできるようになります
わざわざ字数を崩して、字余り・字足らず句を作る必要はありませんが、むやみに字余り・字足らずを恐れることは無いと言うことです
これから俳句を始める方は、どんどんと新しい、韻律の良い俳句を作っていってください
最後に
俳句作りに必要な韻律について、記事に書きました
今回は「 ①音声の強さ ②音声の高さ ③音声の長さ 」の中の「③音声の長さ」について、説明をしました。
「①音声の強さ ②音声の高さ」を読まれていない方は、そちらも一緒に読むと、より韻律を深く理解できて、良い俳句が作れるようになるはずです
① ─音声の強さについて─
② ─音声の高さについて─
③ ─音声の長さについて─