韻律(いんりつ)を知れば、1.5倍俳句が良くなる!(③音声の長さ)

 

俳句の世界では、良い俳句は韻律が良いと言われます
しかし、具体的に韻律が何なのかを説明しているのは、聞いたことはありません
ここでは、韻律とは何なのか
どのようにすれば、良い韻律の句が作れるのかを、具体的に説明します
 
 
「韻律」とは、音声の高さ・強さ・長さによって作り出される言葉のリズムのことです
ですから、音声の高さ・強さ・長さなどが整っていると、韻律の良い俳句と言うことになります
 
 
ここでは、音声の高さ・強さ・長さのうちの「音声の長さ」に絞って話を進めます
 
 
「音声の長さ」は音楽で言う所のリズムに相当すると考えてください
4拍子や8拍子もリズムの一つで、人間は繰り返しのリズムに心地よさを感じます

 

俳句もそのリズムを用いられている訳です
 
 
 
 
 
 
音声の長さ(音楽で言う所のリズム)
次の俳句を読んでみてください
4拍子で表記してみます
 
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |
ゆくはるを・・・ おうみのひとと・ をしみける・・・
行春を     近江の人と    をしみける
 
韻律の良い句は、一小節ごとに上五、中七、下五のそれぞれが収まっていることが多く、四拍子のリズムにも上手く乗っています
一定の音の長さ、一定の音のリズムに収まることで、読む人に心地よさを与えるのです
 

 

正調の句はこのように、長さ、リズムともに綺麗におさまっているのですが、破調の句では、うまく収まらないことが多い傾向にあります
 
 
正調の句と、破調の句を見比べてみましょう
 
正調の句
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |
いくたびも・・・ ・ゆきのふかさを たずねけり・・・
幾たびも      雪の深さを   尋ねけり
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |
とどまれば・・・ あたりにふゆる・ とんぼかな・・・
とどまれば    あたりにふゆる  蜻蛉かな
 
どちらも、一小節の長さ、リズムに俳句が収まっていますね
 
 
 
破調の句
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
あけぼのや・・・ しらうおしろきこ といっすん・・・
明ぼのや     しら魚 しろきこ と一寸
 
上記の句では「しろきこと」という単語が小節をまたいでいて、リズムが悪くなっています
では「しろきこと」を「しろき」「こと」にすればよいのでしょうか?
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
あけぼのや・・・ しらうおしろき・ こといっすん・・
明ぼのや     しら魚 しろき  こと一寸
 
こうなると、少しは良くなりましたが、リズム的には下五がだらだらした感じを受けます
また、「こと一寸」が、一つの単語のような違和感を与えます
 
 
もしかすると作者は、「しらうおしろきこと」までを中七のリズムで詠んだのかもしれません
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
あけぼのや・・・ しらうおしろきこと いっすん・・
明ぼのや     しら魚 しろきこと 一寸
 
このように読むと、中七で一気にスピードが増して、緩急が生まれます
最後の「一寸」が四文字の短いフレーズになってしまいますが、その短さが「一寸」にかかっているようにも思えます
 
芭蕉に答えを聞くことはできないので、正解は分かりません
ただ、今見たように「破調の句はどこまでが一区切りなのか」読み手を迷わせてしまうことは確かです

 

こうなると、「韻律が良い句だな」と読者が思うことは難しいのではないでしょうか
 
 
 
では、破調の句は作ってはいけないのか?と思ってしまいますが
そんなことはありません
俳句のリズムを意識できれば、破調でも、字余り・字足らずの句でも作れるようになります
 
また、先輩方が言う「この句のような字余りなら大丈夫」という意味も分かるようになります
 
 



 
次の句は、五・五・七の破調句です
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
うみくれて・・・ かものこえ・・・ ほのかにしろし・
海暮れて     鴨の声      ほのかに白し
 
普通に読むと、だらだらと流れる感じを受けます
ただこの句を作った作者は、次のリズムで詠んだはずです
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
うみくれて・・・ ・かものこえほの かにしろし・・・
海暮れて      鴨の声ほの   かに白し
 
最後の「五・七」が流れるような言葉となり、リズム感が増しました
 
 
 
 
 
 
 
 
芭蕉の字余りの句です。六・七・五
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
たびにやんで・・ ゆめはかれのを・ かけめぐる・・・
旅に病んで    夢は枯野を    かけめぐる
 
この句も、普通に読むと流れが悪いのですが、作者は次のリズムで詠んだはずです
 
♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ |♩ ♩ ♩ ♩ | 
・たびにやんで・ ・ゆめはかれのを かけめぐる・・・
旅に病んで    夢は枯野を   かけめぐる
 
どうでしょうか、リズムが出て、まるで句そのものが野を駆けているように感じます
上六の字余りの違和感もなくなったのでは無いでしょうか
 
 
 
 
ここで言いたいのは、リズムを意識して詠めば、破調でも、字余り・字足らずの句でも、韻律の良い句は作れると言うことです
逆に、このリズムを理解していなければ、韻律の良い破調句は作れませんし、先輩の句を鑑賞しても、どれが良い破調句で、どれが悪い破調句なのかを見分けることもできないでしょう
 
 
 
 
鑑賞するときに毎回、音符を思い浮かべる人はいませんが、無意識の中では、多くの人が上記のようなリズムを刻んで読んでいるのです
リズムの良い句は読者に、韻律の良い、心地よい句だと感じさせることができます
 
リズムを効果的に使えるようになると、芭蕉のように、字余りを利用してリズム感を高める、ということもできるようになります
わざわざ字数を崩して、字余り・字足らず句を作る必要はありませんが、むやみに字余り・字足らずを恐れることは無いと言うことです
これから俳句を始める方は、どんどんと新しい、韻律の良い俳句を作っていってください
 
 
 
 
 

最後に

俳句作りに必要な韻律について、記事に書きました
今回は「 ①音声の強さ ②音声の高さ ③音声の長さ 」の中の「③音声の長さ」について、説明をしました。
「①音声の強さ ②音声の高さ」を読まれていない方は、そちらも一緒に読むと、より韻律を深く理解できて、良い俳句が作れるようになるはずです
① ─音声の強さについて─
② ─音声の高さについて─
③ ─音声の長さについて─


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